｢ねぶくろ｣という名前の由来

今日は日記で使用している｢ねぶくろ｣という名前を決めた理由について書いてみる。

その理由を一言で言えば｢ものすごく欲しかったから｣だ。

もう少し補足すれば、まだ会社勤めをしていた頃、だいたい3年半ぐらい前に喉から手が出る程
欲しい時期もあった。でも、結局買わなくて今はそれほど欲しくないもの、と言うことになる。

その理由について以下述べてゆく。

当時の私は、別に登山・キャンプをする程アウトドア派でもないし、公園で寝泊まりする程の
極貧生活を送っていた訳でもない。

使いたかったのは、屋根がある部屋の中、それも会社のオフィスの中でだ。
私は元々システム開発のSEをしており、3年半前の冬にいわゆる｢燃え燃えプロジェクト｣の
まっただ中にいた。

本当に猫の手も借りたい程の忙しさで、土日出勤は当たり前、平日も半分は徹夜で、
そうでない日もギリギリまで作業しており、仕事が終わっても終電に乗り込む為に駅まで
ダッシュして帰るような毎日だった。そんな生活をたぶん、2～3ヶ月送っていたと思う。

そうなるとだんだん気持ちも弱ってきて、こんなことを思うようになる。
｢どうせ家に帰っても3～4時間ぐらいしか寝られないし、駅までダッシュするのもつらいし、
明日も朝早いからこのままここに泊った方が、ゆっくり休めるんじゃないか。｣

その気持ちが強くなると、頑張れば終電に間に合いそうな日であっても、始めから泊り覚悟で
｢夜は長いし、泊ってゆっくりやればいいや。｣とも思うようになってくる。

しかし、その時はそう思うのだが、実際はそんなに甘くない。
会社のオフィスというのは元々も寝る場所ではないので（当たり前だけど）、とにかく寝るのに
向かないのだ。

床にそのまま寝るのは痛いし汚れそう。近くの椅子をつなげて寝てみてもやっぱり、頭とか
背中とかが痛い。結局痛い。

しかも、寝る場所はたいてい打ち合わせルームとかになるのだが、冬はここが異常に寒い。
仕事をしている部屋は暖房が入っているが、そうでない所は自動的に夜になると切られる
仕組みになっている。コートとか上着を掛けて寝ていても、眠れるのはせいぜい1～2時間
ぐらい。それ以上は寒くて目が覚める。その後は結局仕事に戻る感じだ。

そんなことを何回か繰り返しているある日、上司が｢お疲れ｣と私たち部下に声をかけながら、
何かを抱えていつもの打ち合わせルームに夜中入って行くのを見た。

始めは｢何かな｣と思ったのだがよく見るとそれが｢ねぶくろ｣だったのだ。
それはとてもふかふかしていて、後でちらっと部屋を覗いてみた時の上司の寝顔はとても
気持ちよさそう。

｢欲しい。これ絶対欲し～い。｣
｢これあったら絶対寒い思いをしないでぐっすり眠れるはず。今度ドンキに買いに行こう。｣

実際は結構ぼろぼろだったと思うが、当時の私にはそれが輝いて見えた。、
それはとても暖かそうで、それがあれば何もかもすべて解決できそうな気がしたくらいだ。
（以前は家のすぐ近くにドン・キホーテがあった。）

でも、ふと、違う思いも頭をかすめた。
｢これがあれば確かにぐっすり眠れるかもしれないけど、何か違うような気がする。｣

上司には奥さんも子供さんもいるが、その時の私以上に泊まり込みが多く、たぶん週に1回
ぐらいしか家に帰っていなかったと思う。｢ねぶくろ｣があれば確かに、寝るのに寒い思いは
しないかもしれないが、逆に｢泊ってもいいや｣と言う甘えが仕事にも出てきてしまいそうな
気がした。それは私にとって禁断の木の実のようなものだったのかもしれない。

もちろん全員がそうだとは限らないが、私みたいな意志の弱いものはそう思う。
上司には申し訳ないが、ここでこれを買ってしまったら、なぜか人間として負けてしまうような
気がして買うのを思いとどめた。別にこれがきっかけではないがその後、私は会社を辞めた。


それ以来私にとって、｢ねぶくろ｣は特別なものになった。

今でもデパートやドン・キホーテなどに行って、時々｢ねぶくろ｣が置いてあるのに目が
とまると、当時のほろ苦く甘酸っぱい思いが蘇る。ここでの｢酸っぱい｣とは、家に帰れず
汗臭くて本当に｢酸っぱい｣臭いがした、と言う意味もある。

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